支援方法2 母語話者不参加
母語話者が支援教室に参加することが難しい場合には、日本語の教科書と併用して、母語で学習内容の要点をまとめた「母語シート」や同様の内容を母語で録音した「母語テープ」を活用することができます。
下記に紹介する例は、生徒の父母の協力を得て「母語シート」を作成し、学習支援を進めていったものです。
具体例 | |
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支援教科 | 社会科(日本史) |
対象者 | 高校1年生(タガログ語・英語話者) 教科の授業を理解することが難しいことから、担任の先生より支援依頼がある。日本語での会話は円滑に行うことができる。滞日3年目。 |
支援者 | 生徒の父母(母語プリントの作成)、LAMPのメンバー(支援教室での支援) |
母語シート作成の手順
日本語話者の支援者が、日本史の時代ごとに要点を日本語でまとめた日本語シートを作成し、それを父母(あるいは別の翻訳者)に自宅で母語に翻訳してもらい、それを支援教室で使用するという手順で進める。父母への母語訳の依頼は、支援教室での学習の一ヶ月ほど前にお願いし、余裕を持って準備をしておく。
- 母語シートは、どの教科の場合にも支援教室で扱う内容を決めて、特に母語で伝えた方がいいものを中心に作成する。
- 母語シート作成には、父母など保護者以外に留学生や地域住民の方にお願いすることもある。
母語シート作成の手順
例:平安時代
- 学習内容の決定 LAMP支援者が、教科書や資料集、問題集などを参考に、平安時代で特に重要な点を選択し、支援で学習する内容を決める。(支援で扱う内容は生徒の理解度や意欲、時間、支援の位置づけなどによって異なる)
- 日本語シートの作成 1で決めた内容を組み合わせて日本語で文章にする。
- 母語シートの作成 父母に日本語シートを渡し、翻訳をお願いする。必要な際には、内容を説明する。(翻訳の元になる日本語シートは、生徒を介して、或いは父母に会った際に手渡しやメールなどで渡す。完成した母語シートの受け取りも同様に行なう)
- 支援教室で使用。
母語シート利用の例
例:平安時代(1-3の過程を4-5回の支援で行う)
- 生徒は、日本語シートを読み、これから学習する平安時代の内容について確認する。日本語シートではよくわからない点があれば、その都度母語シートで確認しながら日本語シートを読み進める。
- 生徒は、1でよくわからなかった点を支援者に確認する。支援者は、ヒントやエピソードを与えながら理解を助ける。
- 確認シートで要点をまとめる。
- 支援教室で使用。
- 毎時、授業の最初に前回の学習内容に関して、質問形式で確認をしている。生徒は答える際に、日本語シートと母語シート、確認シートを読み返す。シートを活用することを習慣づけている。
- 確認シートは、生徒の状況によって難易度を変えている。支援当初は、日本語・母語シートからの抜き出しで答えられるような内容だった。(例:「平安時代は、()年に始まった」)支援が進み、社会科学習にも慣れてきてからは、日本語・母語シートの内容を自分でまとめて書くという内容も増やしていった。(例「桓武天皇はなぜ都を平城京から平安京に移したのか。説明せよ」「院政とは何か。説明せよ」)
来日間もない子どもの場合には、母語シートを先に読んで内容を把握してから、日本語シートや教科書を使って学習を進めることもできる。また、確認シートも母語で作成することもできる。
母語シートの代わりに母語テープを使って学習することもできる。母語テープは、母語での読み書きが難しく、聞くことが得意な場合にも母語での学習ができることが利点。また、母語シートと母語テープを組み合わせて使うこともできる。子どもの言語の力は常に変化しているので、担当のお子さんの母語の力と日本語の力のバランスをみながら、教材の難易度を変えることもできる。子どもの状況に合わせて、どのくらいの難易度の教材にするのか、どちらの教材を使うのか、或いは両方を使うのかを決めるとよい。
母語シート・テープを使用することの意味
- 母語での内容理解をテコとして、日本語による学習の理解度を高め、教科学習と日本語学習の促進を図ることができる。
- 在籍学級の教科学習と関連づけた母語による学習は、継続的な母語学習の機会を提供することにより、母語の保持・伸長を促進することもできる。
小学生・中学生を対象に、年間30人ぐらいの子どもへの学習支援を行っています。彼らの母語は、中国語、英語、タガログ語、韓国語等です。